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福岡高等裁判所 昭和24年(ネ)267号 判決 1949年12月28日

控訴人

日本発送電株式会社

被控訴人

日本電気産業労働組合港発電所分会

右代表者

執行委員長

主文

本件控訴はこれを棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

控訴の趣旨

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の本件仮処分命令申請はこれを却下する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決並びに保証を条件とする仮執行の宣言を求めた。

被控訴代理人は「控訴棄却」の判決を求めた。

事実

当事者双方の事実上の陳述は

控訴代理人において

(一)  被控訴組合に本件仮処分申請をする適格のない事由として

(1)  本件仮処分申調の趣旨は被控訴組合の組合員たる河原畑平八郎個人が依然として控訴会社の従業員たることの仮の地位の設定であり、その理由とするところは解職が協約に違反するというのである。

従つてその目的とするところは結局河原畑に仮の地位を定めることにより同人に対して労働に従事することを妨害してはならないこと及びこれに対し賃金を支払うべき旨の仮処分の申請をする趣旨と同一に帰着するのである。然るに右賃金を請求する権利の如きは控訴会社と当該組合員個人間の労働契約に基いて個々の当該組合員が控訴会社に対して有する権利でありこの権利については被控訴組合は何等これを処分する権限を有するものでないから被控訴組合としては該権利を訴求する適格を有しないものというの外なく又労働に従事することを求める権利換言すれば労働者が使用者に対し労働給付の受領を求める権利は労働協約に特別の定のない限りこれを否定すべく使用者としては賃金支払義務を盡せば足り従業員の労働給付はこれを受領すべき義務を負うことはないのであつてその受領を訴求する権利は何人もこれを有することなく従つて被控訴組合が右権利の保全を求めることも亦できないものというべきであるから本件仮処分の申請は失当である。

(2)  本件仮処分申請は前記の如く権限なき被控訴組合からの申請に基く河原畑個人に関するものでありそれ自体仮処分の使命を逸脱し不当である蓋し労働協約は法人たる労働組合と会社間の労働条件に関する契約であり会社対従業員間の直接の契約ではない、只間接に効果を生ずるに過ぎない。会社と従業員間には雇傭契約が存する。採用、解雇(その取消をも含む以下同じ)は経営者固有の人事権として会社に存する。労働組合には直接従業員を採用、解雇する権限は絶対にない、只労働協約の約款に基き会社を通じ間接にこれを求め得るに過ぎない。本件の如く河原畑の意思如何を問うことなく而かも労働組合から会社に対する解雇処分取消請求の本案訴訟を提起する前提として直接解雇処分取消と同一の効果を招来する仮処分を申請するのは組合としては当然越権の行為であり行き過ぎである。

(3)  本件仮処分申請は前記の如く労働組合たる被控訴組合からその所属組合員たる河原畑平八郎が控訴会社の従業員たることの仮の地位を定めるためのものであるが肝心の河原畑は訴訟の当事者ではない従つて仮処分判決の効力は固より河原畑には及ばない、評言すれば本件仮処分は控訴会社対被控訴組合間においては会社は河原畑が会社の従業員であることの仮の地位を認めなければならぬことになるが控訴会社対河原畑関係においては会社は河原畑を会社の従業員としての仮の地位を認むべきではない、それは仮処分判決の既判力は訴訟当事者以外の第三者には及ばないからである。従つて被控訴組合から控訴会社に対し組合関係においてのみ河原畑が会社の従業員たることの仮の地位を認めしめるに過ぎないような仮処分は被解雇者たる河原畑の生活保障にも何にもならず仮処分をする必要と理由が全然なく徒らに法律関係を複雑ならしめる結果となり甚だ不都合の現象を呈するに至るに過ぎないから本件仮処分申請は失当である。

(4)  本件仮処分申請の趣旨は被控訴組合の所属組合員河原畑平八郎が本案判決確定に至るまで控訴会社の従業員として給料手当等を受領する地位を有するというにあつて、その理由とするところは懲戒処分の結果河原畑はその生活の基礎を奪われ生計不能の状態に在るからであるというのである。すなわち、専ら給料手当の支給を受けて生活を維持しようというのである(河原畑は組合事務専従者であつて懲戒解職当時は軍事裁判によつて重労働三年の刑を受け服役中であつた、現在は免役されている)然るに原判決はこの申請の趣旨に一歩を進め「河原畑平八郎が被申請会社の従業員である地位を有する」とし給料手当の仮受領の権限以外に従業員をして全般にわたる仮の地位を認めている。これは正しく申請の趣旨を超越し甚だ不当である。(控訴会社は河原畑が従業員である仮の地位を得て会社に出入することは工場の秩序維持上困難を生じ回復することのできない大損失を被る虞れがある。)且又本案の確定判決の執行と同一の結果を招来し仮処分本来の目的を逸脱するものである。前記の如く河原畑の生活の維持のためならば只単に給与の仮払を命ずる仮処分丈けで足る筈である。

(二)  本件懲戒解職の基本となつた当事者間の労働協約附属の覚書に「労働協約第六条第一項但書に『別に定むる懲戒解職の場合』とあるのは刑法上明らかに破廉恥罪を構成する如き重大なる事実ありたる場合に限るものとす」とある、いわゆる刑法上明らかに破廉恥罪を構成する如き重大なる事実とは重大なる事実が懲戒解職の理由であることを明らかにし破廉恥罪を構成する場合は重大なる事実に該当することは勿論のことであるが重大さにおいてこれに比較する場合も総べてこれに該当する趣旨である。すなわち、破廉恥罪を構成する事実は重大なる事実の例示であることは破廉恥罪を構成する如き重大なる事実とある文言から当然解釈される結果であり而して事の重大なるや否やは会社の事業経営、工場の秩序維持、従業員の立場等総有方面から観て決定さるべきもので破廉恥罪は道義心から観た重大なる事実である。而して本件の場合の如く占領軍の占領政策に反しその指示に反する行動をなし軍事裁判に附せられ重労働の刑に処せられ実役に服することは占領下の国民として大いに恥ずべきことであり国際道義に反し控訴会社の体面を汚すこと甚だしきものである。社会秩序を維持し占領軍の占領政策に協力しなければならぬ日本国民の当然の義務に稽え極めて重大なる事実である。少々の物を盗んだとか横領したとか猥褻な行為をしたという破廉恥罪などに比し遥かに重大であるといわなければならない。況んや右覚書を破廉恥罪に限るというが如きはためにするための曲解であり到底首肯のできないところである。

(三)  大牟田地方労働組合会議(通称大労会議)の主催で行われた昭和二十三年十月十六日の不当弾圧反対労働者総決起大会は大労会議傘下の各団体が共同闘争委員を設け共同してなしたことであり被控訴組合もその一員として参加したに過ぎないものであり昭和二十四年三月二十六日の口頭諒解事項にいわゆる「今次争議」に関連するものではない従つて右大会でやつたデモ行進による軍事裁判による処罰者は「今次争議に関連して生じた犠牲者」ではないから右口頭諒解事項の範囲外でありこれに基く復職の要求は理由がない。と述べ、

被控訴代理人において

(一)  控訴会社は本件仮処分申請は被解雇者たる河原畑平八郎本人の申請でなければならないと主張するけれども本件は労働協約の覚書から発生した事件であり組合として重大な利害関係があるから右河原畑の属する労働組合たる被控訴組合にもその当時者適格がある。

(二)  控訴会社は労働協約の覚書にいわゆる破廉恥罪を構成する事実は重大なる事実の例示であると主張するけれども河原畑の犯行は破廉恥罪には該当せず国外法により処罰せられたものであるから右覚書にいう重大なる事実には該当しない。

(三)  訴外河原畑平八郎は軍事裁判において即決で重労働三年の刑に処せられその後嘆願の結果米軍歩兵第二十四師団において重労働一年の刑を言渡されたのであるから重労働一年が確定刑であつて昭和二十四年七月四日米国独立記念日に際し釈放されたと述べた外はいずれも原判決書当該摘示事実と同一であるからここにこれを引用する。(未尾注参照)(踈明省略)

理由

先ず被控訴組合に本件仮処分申請をする適格がないとの控訴会社の主張について案ずるに労働組合は使用者に対し所属組合員のためにその労働条件の維持改善その他経済的地位の向上等に関して団体交渉をなし労働協約を締結する権限を有するものであるから使用者が組合員に対して負担する協約上の義務を履行すべきことを要求し得べきものであることは、当然であつて、かかる権能が認められる以上若し使用者に協約上の義務の不履行又は違反のある場合には組合の名において個々の組合員のためにその義務の履行又は違反行為の除去に必要な行為、不行為を訴求する権利を有するものと認むべきであつてこの場合には該訴訟の目的となるところは組合のためにも亦個々の組合員のためにも共通のもので合一に確定すべきものであり且つ労働協約上においては組合とその構成分子たる組合員との関係は極言すれば組合即組合員というべき実質上の一体性を有する特質に鑑み右訴訟の判決の既判力は直接その当事者となつた組合に対してのみならず個々の当該組合員にも及ぶものと解するのが相当である。成立に争のない乙第十一号証によつては右解釈を左右し離くその他これを否定すべき理由はない。而して本件仮処分申請が後記の如く当事者間の労働協約上の違反行為の除去に必要な行為を求めるものであることは明らかであるから控訴会社のこの点に関する主張は採用しない。

次に実体について案ずるに被控訴組合の所属する日本電気産業労働組合と控訴会社との間に昭和二十一年四月一日に締結された労働協約の第六条に「会社は従業員を解雇せんとする時は予め組合と協議するものとす。但し停年退職、依願退職及び別に定むる懲戒解職の場合はこの限りに非ず」と規定せられ、更に同協約の覚書に右懲戒解職の意義について「刑法上明らかに破廉恥罪を構成する如き重大なる事実ありたる場合に限るものとす」と定められていること。河原畑平八郎が控訴会社の従業員で被控訴組合の組合員であること。右河原畑が昭和二十三年十月十六日に開催された大牟田地方労働組合会議主催の政府不当弾圧反対労働者総決起大会に際し大牟田市警察署前で示威運動を行つたことが福岡軍政部の指示に違反するということで軍事裁判により同年十二月十日に重労働三年の刑に処せられ昭和二十四年七月四日に釈放されたこと及び控訴会社が同年三月二十九日に右処刑の事由に基いて河原畑平八郎を懲戒解職処分に附したことは当事者間に争のないとろである。

而して成立に争のない第一号証の控訴会社の社員規程によればその第六十四条第一項第三号において会社の体面をけがした者は懲戒することとなつており更にその第六十五条第一項において懲戒はその行為の軽重に従つて一、けん責二、減給三、休職四、解職の四種と定められているが、解職はいうまでもなく従業員に取つて直ちにその職を失い事生活に直接影響する最も重大な懲戒であるから懲戒解職については前記のように会社は予め組合と協議することを要しないが会社の一方的見解によつて濫りに従業員の地位の保障を害することのないように前記覚書において特にそのなし得べき場合を限定したものと認めることができる。

そこで河原畑平八郎の前記処刑事実の内容を検討するに成立に争のない乙第四号証、証人松倉三郎、永田藤春、河原畑平八郎の各証言を綜合すれば右河原畑は被控訴組合の執行委員であり且つ大牟田地方における労働組合を構成分子とする大牟田地方労働組合会議(通称大労会議)の副議長の職に在つたが昭和二十三年十月十三日に同会議々長森田秀三の検束に対抗するため右大労会議において共同闘争委員会が設置され同月十六日に大牟田第二小学校において不当弾圧反対労働者総決起大会が開催されこれに参加した約五千の組合員が大会終了後デモ行進に移つたのであつたが河原畑はデモ行進に先き立ち右組合員大衆に向つて官憲の労働運動に対する不当弾圧について話した後同日のデモ行進においても問題を惹起しないように強調すると共に更に右大会議長及びデモ隊長にも右趣旨の徹底方を頼んだ上自らはデモ行進に参加せず直ちに警察署に赴きデモ行進が同署前を通過することになつていたのでその諒解を求めると共に警察側でこれに干渉して問題を惹起するこのないよう善処方を促た後デモ行進が同署前を通過しかけたのでこれに対して讃辞と拍手を送つたのみで同日の右大会及びデモ行進に際しては何等の問題も生ぜず無事に終了したのであつたがその後約一週間を経て河原畑は前記デモ行進の責任者として他の数名と共に一九四八年七月十四日附九州軍政部の指令に基き福岡軍政部の発した「大衆の安全のため及び法律並びに秩序の維持のためパレードは県庁、市役所、警察の建物及び法廷附近において終焉し又は集合することを禁じデモンストレーションも前記建物附近において開催することを禁ずる」旨の命令(右は一九四九年四月四日廃止された)違反の廉で前記のように同年十二月十日に軍事裁判により重労働三年(一年の刑期を終えた後二年間執行停止)の判決を受け右判決後直ちに刑の執行を受けたが一九四九年七月四日に第二十四歩兵師団長の特赦により釈放されたという事実が認められる。

よつて右河原畑の処刑事実が右覚書にいわゆる刑法上明らかに破廉恥罪を構成する如き重大なる事実に該当するか否かについて考えてみると連合軍の管理占領下にある現在のわが国においては占領軍の命令は国民均しくこれを遵守し占領政策に協力することは当面の最大急務であることはいうまでもないことであつて苟も占領軍の命令に違反し軍事裁判により実刑を科せられ服役を要するに至つたことは正に重大なる事実というべきであるから河原畑の前記所為も亦重大なる事実ということを妨げない。然しながら懲戒解職の事由として覚書にいう重大なる事実とは単に重大なる事実というだけでは足らず「刑法上明らかに破廉恥罪を構成する如き」ものでなければならないことはその文訶上明らかである。控訴会社は「破廉恥罪を構成する如き」とは重大なる事実の一例示であると主張するけれども該主張は採用し離く又この点に関する成立に争のない乙第二、三号証同第九号証の一、二、四、五の各記載部分によつては右解釈を左右するに足らない。従つて河原畑の前記所為は未だ以つて右覚書にいう懲戒解職の事由たる刑法上明らかに破廉恥罪を構成する如き重大なる事実には該当しないものと解するのが相当である。

されば控訴会社が被控訴組合の組合員たる河原畑平八郎に対してなした本件懲戒解職処分は前記労働協約及び覚書に違反する無効なものといわなければならない。而して右懲戒解職処分により控訴会社の従業員たる地位を失つたものとして遇せられている右河原畑が生活上急迫した著しい損害を被つていることは証人銅山繁美、帯谷宗一の各証言によつて疎明されている。成立に争のない乙第十二号証によつては右認定を左右するに足らずその他にこれを覆すに足る疎明資料はない。従つて河原畑をして控訴会社の従業員たる仮の地位を有せしめることが適当であると認める。控訴会社は給料手当の仮受領の権限以外に従業員としての仮の地位を定めることは申請の趣旨を超越したものであるというけれども、申請の趣旨は従業員としての仮の地位の設定を求めているし、本件仮処分としては右の如き仮の地位の設定を妨ぐべき事情なく寧ろ之を相当と認められる。

よつてこれを同旨に出た原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条を適用して主文の通り判決する。

「注」

一、保証  金弐千円

二、主文

本案判決確定に至るまで申請人組合の所属組合員河原畑平八郎が被申請会社の従業員である地位を有する。

申請費用は被申請人等の負担とする。

三、事実

申請組合所属の日本電気産業労働組合と被申請会社との間に昭和二十一年四月一日締結せられた労働協約の第六条に「会社は従業員を解雇せんとするときは予め組合と協議するものとす。但し停年退職、依願退職及び別に定める懲戒解職の場合は此の限りに非らず」と規定せられ、同協約の覚書には懲戒解職の意義について「刑法上明に破廉恥罪を構成する如き重大なる事実ありたる場合に限るものとす」と定められているところ、被申請会社の従業員で申請組合の所属組合員である河原畑平八郎が「デモ」を行つたため軍事裁判所に起訴せられ重労働三年の有罪判決を受け該判決確認の結果一年の実刑残り二年は執行猶予となつたことを理由として被申請会社は同人を懲戒解職処分に附したのである然しながら右は所謂破廉恥罪には該当せず又前科の事由とも選挙資格喪失の事由ともならないのであるから、まして況んや懲戒解職の事由として定められた前記覚書の事実には該当しないと解するのが相当であり、而も本件の「デモ」は所謂電産「スト」に関連して発生したものであるが、該「スト」解決のため昭和二十四年三月二十六日前記日本電気産業労働組合と被申請会社の属する電気事業経営者会議との間に「今次争議に関連して生じた犠牲者問題については会社としても組合要望の趣旨を尊重しその解決に誠意を以て努力する。尚斡旋員もこの点につき充分協力する」との口頭諒解が成立しているのであるから、被申請会社としても、前記河原畑を解雇するについては一応組合と協議するのが妥当であり、このことなくして一方的に為された右懲戒解職処分が前記労働協約に違反することは明であるのみならず、右は組合の弱体化を計る意図の下に為されたものであつて労働組合法第十一条、労働関係調整法第四十条にも違反するものである。よつて申請組合は前記懲戒解職処分取消の訴を提起すべく準備中ではあるけれども、懲戒解職処分の結果、河原畑平八郎はその生活の基礎を奪われ、生計不能の状態に在るから、茲に本件仮処分の申請に及んだと述べ疎明として甲第一号乃至第八号証(うち第四号証は一乃至三)を提出し乙第一号証の成立を認めた被申請会社代理人及び被申請人武田益祐は申請却下の判決を求め答弁として先づ本件仮処分申請は当事者適格を欠如する不適法なものとして却下を免れない。即ち本件申請は被申請会社の為した懲戒解職処分の効力の停止を求めるものであるが、該解職処分は被申請会社から河原畑平八郎個人に対して為されたもので、組合に対して為されたものではないから、組合自身右法律関係についての管理権がなく従つて当事者適格を有しないものと解すべきだからであると述べ次で申請の実体につき申請組合の所属している日本電気産業労働組合と被申請会社との間に昭和二十一年四月一日締結せられた労働協約の第六条及び同協約の覚書にそれぞれ申請組合主張通りの定めがあること、河原畑平八郎が被申請会社の従業員で申請組合の所属組合員であること、同人が「デモ」を行つたため軍事裁判所に起訴せられ有罪の判決を受けたこと、被申請会社が右事由にもとづいて一方的に同人を懲戒解職処分に附したことはいづれもこれを認めるが右懲戒解職処分は前記労働協約には勿論労働組合法第十一条労働関係調整法第四十条にも違反するものではない。即ち前記労働協約の覚書に「破廉恥罪」いうのは重大なる事実の一例示に過ぎないのであつて、苟も重大なる事実がある場合は労働協約第六条但書の懲戒解職処分を為し得る趣旨であるところ、昭和二十三年十月十六日大牟田市において開催された大牟田地方労働組合会議主催の「政府不当弾圧反対総決起大会」に港分会員約三百名が出席の途上、大牟田市警察署前において示威運動を行つたのが福岡軍政部の「デモ」禁止の指示に違反するところとなり、河原畑平八郎はその謀議責任者として軍事裁判に附せられ昭和二十三年十二月十日重労働三年の判決を言渡され、昭和二十四年一月七日米軍歩兵第二十四師団長による確認の結果一年は実刑、残り二年は執行猶予ということになつたのであるところで占領軍の命令を遵守し占領政策に服することは日本国民の当面の最大の義務であることは論を俟たないところであり、これに違反し軍事裁判所によつて実刑を科せられ而も服役を要するに至ることはまことに重大な事実であり斯くの如き事態を招来せした者が被申請会社の社員であつたことは会社の体面を汚すこと甚しきものがあるが故に社員規程第六十四条第一項第三号に則つて同人を懲戒解職処分に附した訳で同人が「スト」を行つたことを理由として懲戒解職処分が為されたのではないと述べた。

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